July 6th, 2011

インタビュー:takramとMuji Notebookアプリ

Written by Paul Baron

無印良品のMuji CalendarアプリがiPad用にリリースされてから半年が経ち、同社は同アプリがiPhoneに移植されることを発表した。AQは、takramの田川欣哉氏と渡邉康太郎氏に、2010年後半に発表されたMuji Notebooksアプリを無印良品と共に開発をすすめる過程について、お話しを伺った。

このようなスケールのプロジェクトは、どうやって生まれるのでしょうか?

きっかけは、日本デザインセンターのアートディレクターである原研哉さんから連絡があったことです。彼はiPadに非常に興味を持っており、このデバイスの上で無印良品のブランド哲学を表現するアプリケーションを考えてみないかというお誘いを受けました。テーマも自由ということだったので、直ぐさまプロジェクトに取り掛かりました。

どうやって無印良品に、iPadプラットフォームを使うべきだと説得したのですか?

アナログとデジタルのバランスは少しづつ変化してきていて、デジタルの優位性が高まっています。特に最近のiPadの発展はその傾向を加速させています。10年以内には、スクリーン解像度、そしてタッチセンサーなどの技術は、大きな躍進を遂げていることでしょう。10年前のデジタルカメラを思い出して見てください。同様な進歩がiPadにも期待できるのです。そのような進化を経ることで、タブレットは紙の使用を何割か置き換えてしまうかもしれません。私たちは、現在起こっているこの変化に準備しなくてはならないと思いました。

私たちは、まず最初はできるだけ広範囲のユーザに訴求する極めてベーシックなツールから始めるのが良いのではないかということを考えました。

どのようなアプリを開発するか、どうやって決めたのですか?

無印良品とiPadの間に関連性を見出すのは簡単なことではありませんでした。無印良品は、誰でも使えるような日用品を販売していますが、iPadはまだデジタル界の新参者で、ユーザも限定的です。

鍵となったのは、「ステーショナリー」という言葉でした。その言葉のもつイメージは無印良品とiPadの両方に共通するものではないかと考えました。無印良品はステーショナリー製品を多く販売していますし、iPadは手に持って、机の上で、そして膝の上で使えることから、ステーショナリーとしての側面を持ちうるものです。

Muji Notebookを「無印良品の」アプリにさせる要素は何ですか?

私たちは、まず最初に世の中に存在しているノートアプリを観察することから始めました。デスクトップ用のテキスト編集ソフトは、数多く存在していますが、その多くが無骨なツールで、エレガントなものは多くはありません。無印良品のブランド価値を表現するなら、シンプル、安価、ベーシックな機能性、といった言葉が思い浮かびます。このような考え方が、ユーザフレンドリーで安価なノートアプリの開発の指針になりました。求めていたのは、紙のノートを彷彿とさせるようなシンプルなインターフェース、つまり「開いて、書いて、閉じる」というものでした。

iPadなしでどうやってアプリのプロトタイプのデモテストを行ったのですか?

2010年の4月に大まかなコンセプトを紙面で用意して提案しました。その時は思っていたよりも、いい反応がもらえなかったんですよ(笑)。その頃は、このプロジェクトに関わっているほとんどの人たちが、果たしてノートアプリが一番いい選択肢なのかということに関して懐疑的でした。iPhoneのノートアプリ市場には、既に多くの参入者がいましたし、他のプラットフォームで利用できるノートアプリも、完成度が低いものばかりでした。そこで、私たちの方でFlashベースのプロトタイプを作って、液晶ペンタブレットの上で動かしてみたんです。すると、関係者から「おお!」という反応が得られて、プロジェクトが前に動き始めたんです。

まだアプリのプロトタイプの開発に取り掛かっている段階でiPadがアメリカで発売されているのは、懸念材料になりましたか?それとも逆にインスピレーションになりましたか?

iPhoneのノートアプリの多くがiPadに移植されることは予想できましたし、それらのアプリの研究もしていました。ノートアプリを選択したのも、それがレッド・オーシャン(既存市場)だったからということもあります。競合アプリを研究し、自分たちが夢見ていたアプリと比較して、ロードマップを策定しました。

アプリのシンプルさと無印良品のコンセプト・ガイドラインを保ちつつ、ユーザニーズに応え、競合アプリに対しての優位性を確保し続けるためにどの様な戦略を考えていますか?

私たちのゴールは、アプリが提供する性能や品質を改良しつつも、そのシンプルさを保つことです。機能増強の競争に安易に参加してしまうと、元々のコンセプトが曖昧になりかねません。機能性とシンプルさのバランスを常に意識しています。

現在は2週間に一回程度のアップデートを繰り返し、2−3年でノート書きアプリのトップ3に入るようなところまで育てていきたいと考えています。今までになかった多くのデジタル活動が生まれるその瞬間に立会いたいと思っています。

これらのアプリが無料ではないのは何故ですか?ユーザは、有名ブランドが無料アプリを提供するのにもはや慣れていますが?

継続してアップデートを繰り返しアプリを改良していく中では、持続可能性のある事業構造が必要になるため、現在のところは有料で提供していければと思っています。

アプリの価格はどのようにして決定したのですか?無印良品側で、秘密の価格設定公式のようなものがあったのでしょうか?!

リアルなノートの価格は大体100円程度ですよね。MUJI NOTEBOOKの中では何冊も自由にノートを増やしていくことができるので、ノート数冊分の価格が妥当なのではないかという議論がありました。商品を安価で提供するというコンセプトからも、450円というのは悪くない価格だと思います。

ユーザテストは行いましたか?

発売の1ヶ月前に、典型的なユーザにいくつかのタスクをおこなってもらいました。そこで気付いた操作上の問題は最初のアップデートで修正しました。現在は多くの実際のユーザがいますから、毎日同時に何百人という人のユーザテストが違った文脈で行われているような感覚です。厳しいフィードバックが来ることもありますが、それらは非常に意義のあるもので、それだけ私たちのアプリを気にしてくれる人がいるということは、モチベーションを高めてくれます。

大きな企業のプロジェクトに関わると、発表したあとはフィードバックがほとんどないこともあるので、これは私たちにとっては非常に刺激的なことです。それにユーザフィードバックは、問題を修繕するために必要なだけでなく、アプリの未来を考える際に多くのアイデアを提供してくれるのです。

このプロジェクトに関して一番良かった思い出と一番つらかった思い出を教えてください。

私たち自身、無印良品のファンなので、彼らと仕事をすることは非常に名誉なことでした。無印良品からは、発表の期日以外には特にプレッシャーはありませんでした。プロジェクトのコーディネーションも素晴らしいものでした。また、takram内外のエンジニアと素晴らしい開発チームを結成することができました。それに、無印良品のブランド愛好者からフィードバックを得たり、これからも一緒にアプリを改良していくことができるのは素晴らしい体験です。

最もハードルが高かったのは、日本語の手書き文字認識の開発だったのではないかと思います。当時に同様の機能を提供しているアプリは、市場に出回っていなかったのではないかと思います。

物性の消失についてお聞きしたいのですが、takramはこれまで多様なアート・インスタレーションで(風鈴ふるまい)触覚、光、音、そしてアナログ・インターフェースと人の感情の繋がりについてどれだけ理解をし、また敬意を持っているのかを示してきました。今回ノートをデジタル化することで、紙の感触、紙のペン先に対しての抵抗、インクの滲み、インクが乾く時の色の変化などの感覚的要素が失われるわけですが、それについてどう思われますか?

iPadが提供する要素というのはアート・プロジェクトのそれとさほど違いはないんです。技術的に未熟な部分もあり、デジタルと人間の感覚の間にはまだまだ距離があります。ただ、iPadはまだまだ若い製品です。10年後にタブレットコンピューターがどれだけ強力になっているか想像してください。可能性は無限です。私たちは、それに遅れを取りたくないですし、次の10年間でデジタルインターフェースの新たなエモーショナル要素をいくつも考えだしていきたいと思います。

ポール・バロン2002年、インタラクション・デザイナーとしてホンダの研究開発グループに参加するために東京へ移住。2003年、日本のアートとカルチャーを広げるためにtokyoartbeat.comを共同設立。ポールの記事をもっと読む


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